大判例

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東京地方裁判所 昭和37年(わ)512号・昭37年(わ)730号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決要旨〕証人の証言が検察官に対する供述と異つている場合、右の如く異つた証言をしたことが、被告人らの報復をおそれているためであり、あるいは、異つた証言をすることについての弁解に合理性が認められない場合は、右証人の検察官に対する供述調書は刑訴法三二一条一項二号後段により証拠能力がある。

〔判決理由〕四、次に直接証拠を検討するが、そのはじめに検事調書の証拠能力を検討する。すなわち柴田繁子および友谷幸一は検察官に対して、麻薬取引の相手方は被告人であると述べ、正木茂は麻薬取引のため朴魯植を紹介した相手方は被告人であると述べていたのに、証人としてはすべて被告人ではないような陳述をしている。従つてこれらの者の検事調書が刑事訴訟法第三二一条一項二号の書面として証拠能力を有するか否かを検討する必要がある。イ、柴田繁子は昭和三八年二月六日の公判期日に証人として適式に召還されながら正当の理由なく出頭せず、ようやく勾引して同月八日の公判期日に出頭したのであるが、法廷では「警察官や検察官には嘘を云つたことはない」と述べながら、一方検事調書の記載の趣旨と異つたことを述べ、かつ自分は麻薬取締法違反事件で執行猶予になり、釈放されたばかりで、やくざの組織がこわいといつている。被告人の輩下の者が客観的にやくざに当るか否かは別として、これらの者は集団暴行犯を犯したこともあり、柴田としては、捜査官に対して被告人の名前を出したことについて、被告人ないしこれと関連を有する者からの報復を強く虞れていた趣旨に解することができる。ロ、友谷幸一は、被告人も立会つた金沢刑務所における尋問期日において、検察官の尋問に対してあるときは「この人ばかりじやないですね、全部が」と述べ、三度(起訴されていない平野と同道したときをいれると四度)の麻薬取引のうち一度か二度は被告人から麻薬を買い受けた趣旨の発言をしたように受け取れたのであるが、その後検察官、弁護人、裁判官からその点を突き込まれ、支離滅裂の答弁をしている。検察官は友谷がふりむいて被告人の顔をみたとき、友谷の顔が赤くなつたと観察しているが、裁判官はそこまでは確認しなかつた。しかし、友谷証人がいかにも苦しそうに嘘を述べているものと感じられたのである。同証人は捜査官に述べたのと異つた趣旨を述べる理由として、山来多一警部補が約束を守らなかつたからだと述べている。友谷証人のいう約束とは、朴魯植も柴田繁子も取引相手が被告人であることをすでに認めているから、お前も認めるなら平野一夫、文幸安、青木などを逮捕しないといわれたので、自分の友人を逮捕させたくないため、嘘をついて相手は被告人であると述べたというのである。なるほど山来多一警部補が友谷に対して問題は下の方の小者ではなく、上の方の大者を逮捕することだといつたことは、認められるけれども、そのようなことをいつて参考人に陳述を求めるのは捜査官として当然のことである。これに反して取引相手が被告人であると認めるなら、小者を逮捕しないといつたという証拠はないばかりでなく、捜査官としてかような約束をするはずがない。のみならず、平野一夫、文幸安、青木などは友谷よりは朴や柴田との結び付きが密なのであつて、平野は麻薬仕入の使者、文幸安、青木らは小売人である。従つて捜査官が朴や柴田に対して相手方が被告人であることを認めるなら、平野、文幸安、青木らを見逃してやるといつたのならある程度実益はあるといえるが、友谷の供述の如何によつて、これらの者を見逃してやるといつても、あまり関連はないのである。ハ、証人正木茂は昭和三七年一二月一七日朝、府中刑務所より同行され、同日午後一時半の証人尋問の前待機中に、捜査官の設楽検事に面会を求めた。その趣旨は公判廷で証言をすれば、自分も相手方もお互に気まずくなつて困るから、自分の刑の執行が始まつたら、公判に証人として呼ばれることのないように設楽検事にかねて申し入れておいたのに、当日証人として呼び出されたので、同検事に不満を申し出たのであることが認められる。正木茂も被告人も大阪の住人で、かねて面識があつたから、正木が被告人の面前で被告人に不利益な事項を証言するのを嫌がつたこと、正木茂の家族は大阪方面にいるので、被告人側の者から家族に仕返しをされることを恐れたことは充分ありうることであり、この点設楽証人の供述は信用できる。二、以上の次第で、柴田友谷正木の検事調書は、これらの者の証人としての供述よりも特に信用すべき情況があるものと認める。これらの調書は、刑事訴訟法三二一条一項二号後段の書面としての他の条件も満たしているから、これら調書を同号により証拠能力を認める。(藤野豊)

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